輸入凍結精液を用いた人工授精にチャレンジしていただく前に、『日本にいる種牡馬を用いた種付け』と『輸入凍結精液を用いた種付け』の違いを理解していただく必要があります。
凍結精液とは?
凍結精液とは、採取した種馬の精液を遠心分離機に入れ不純物を排除し、長さ10cmほどのstrawに注入し凍結させたものです。
1.凍結精液の精製方法について
フランスでは凍結生液の精製はオートメーション化して精製しています。その1番の理由は精液は温度変化に対して非常繊細なので、精子にダメージを与えないように、正確かつ均等に凍結精液の状態まで状態変化させるためです。
2.凍結精液strawを扱う上での注意点について
凍結生液は保存用専用タンクに液体窒素を入れ、一定温度以上にならないようにします。温度が上がれば上がるほど品質が劣化するからです。劣化は当然凍結精液が精製された瞬間から始まり、飛行機にて輸送中も国内の陸送している間も含みます。温度上昇を防ぐために定期的にタンクに液体窒素を投入しなければならないので、凍結精液strawを扱う上で温度管理が非常に重要になってきます。
3.人工授精の方法とメリットについて
人工授精には生精液、冷蔵精液、凍結精液と3種類の精液の状態があり、それぞれにおいてメリットデメリットがあります。
生精液について(受胎率 高 )
生精液は採取した種馬の精液をその場で直接繁殖牝馬に人工授精する方法です。メリットとしては人工授精の3種類の方法の中で一番受胎率が高く、かつ安価で施術できます。デメリットとして、繁殖牝馬を種馬の厩舎まで輸送しなければならない(またはその逆)事が挙げられます。精液のコストは下げられますが、馬の輸送コストがかかっていきます。
冷蔵精液について(受胎率 中 )
冷蔵精液は生精液を冷やして保存できる溶液で処置をした精液です。24~36時間ほど品質は保持できますが、基本的に時間が経てば経つほど品質は劣化します。メリットとしては生精液よりも少し遠くにいる繁殖牝馬まで種付けを行う事ができます。そのため種馬・繁殖牝馬の輸送をしなくても良くなるので輸送コストが抑えられます。
凍結生液について(受胎率 低 )
生精液を検査した後、遠心分離機にかけ不純物を取り除く処置をして、液体窒素にて凍結させます。温度管理をしっかりすれば長時間精液の品質を保持でき、年単位の長期保存も可能です。メリットは海外の世界トップクラスの種馬の精液を輸入して繁殖牝馬に種付けする事ができる事です。また、繁殖牝馬を輸送させなければならないわけではなく、人工授精師の交通費宿泊費のみで良いので、馬を輸送させるよりは安価かつ安全に施術できます。
4.自然交配(本交)と人工受精の違いについて
日本において乗用馬生産のほとんどが本交においてされていますが、本交のメリットは受胎率が受精方法の中で一番高い事です。ただしデメリットも多く、まず一つ目は本交による事故が挙げられます。種馬と繁殖牝馬の接触行為により、馬同士もしくは人も含めて怪我をする恐れがあります。一方人工授精は馬同士の接触が無いので繁殖牝馬が怪我をするリスクが格段に低くなり、種馬に怪我をさせるリスクが無くなります。
2つ目は、本交させるためには種馬か繁殖牝馬どちらか(もしくはどちらも)の輸送コストが必要になってきます。本交回数が増えれば増えるほど輸送コストもしくは預託コストが高くなります。一方人工授精は移動するのは人工授精師のみで良いので、輸送コストと手間が圧倒的に低くなります。
3つ目は人手です。本交の際には繁殖牝馬に種馬を乗せる為に最低でも3人もしくは4人の人手が必要になります。
5.受胎率について
受胎率と言っても一概に確率通りに受胎するわけではありません。精液は各種馬個体間で精液の着き易さが違いますし、同様に各繁殖牝馬個体間においても受胎し易さが異なってきます。当然生き物ですので、受胎率には精液と繁殖牝馬との相性も関係してきます。また精液と繁殖牝馬が同じであっても、精液の注入時期によっても、繁殖牝馬の心身の状態によっても受胎率は変化すると考えるのが自然であると考えています。従って、人工授精による受胎をお約束する事が出来ません。